小説

【読書記録】平野啓一郎「マチネの終わりに」

・2週間ほど前から平野啓一郎の「マチネの終わりに」(文春文庫)をぱらりぱらりと読んでいる。単行本が出たのは2016年、つまり6年前のことで、僕の頭の中の「近いうちに読む」リストには少なくとも4、5年は入ったままだったのだがようやく読み始めた(僕の…

雨、吉牛、aiko

2022年5月3日夜10時半の吉野家は、雨天にも関わらず遅い夕食を摂る人で混み合っていた。僕が案内されたカウンター席の両脇も既に先客で埋まっていた。店員さんに注文を伝えてしまうと、お冷を飲みながら僕はカウンター奥の壁に設置されているテレビを何とな…

本格野球小説 Me And Mr.OCHIAI その4

Chapter4 青年の回想ーMe meet Mr.OCHIAI ※前回はこちら tomotaroohtako.hatenablog.com 明日は試合なのだ。さっさと夕食を済ませて早く寝てしまおうーー暗い部屋でベッドに体を横たえたものの、頭が妙な具合に興奮してなかなか眠れぬ僕はセブンスターを吸い…

本格野球小説 Me And Mr.OCHIAI その3

Chapter3 タバコ屋主人の回想ーThe old man and Mr.NAGASHIMA ※前回はこちら tomotaroohtako.hatenablog.com 「お前は明日の試合、第2打席でホームランを打つ」唐突な"予言”を僕に言い残して落合博満が去ってしまった後、僕は1人で黙々とグラウンドにトンボ…

【雑記】2021年10月26日

・このところ、昔読んだ本をパラパラ拾い読みすることが多い。いや、せいぜい30ちょい過ぎの者が「昔」とか何いってんだなんだけど、それはさておき。 ・たとえば「カラマーゾフの兄弟」とか。これは高校3年くらいのとき「おれっちもそろそろカラマーゾフく…

本格野球小説 Me And Mr.OCHIAI その2

Chapter2 センチメンタル・ヒロミツ 落合博満は自宅に帰ると、スタジアムジャンパーを脱ぎ、セーターを脱ぎ、ズボンのベルトを緩めてそれも脱ぎ捨て、ステテコと肌着のシャツだけになって、広いリビングの真ん中に据えられた革張りのソファに腰を下ろした。 …

本格野球小説 Me And Mr.OCHIAI その1

Chapter1 トリプルクラウンの予言 「手が先だって言ってんの。そもそも手が出なきゃ、バットが球に当たるわけないだろ。手が出りゃ腰はあとから付いて来んだよ」と落合博満は、その日23回目のまったく同じセリフを僕に発した。「お前のはこうじゃん」 トレー…

【散文】大根、中央線、夕日、鎌倉、そして大根

大根、中央線、夕日、鎌倉、そして大根 コンチクショーって思ったらさあ、大根抜けよ大根! あのなあ、お前俺が何年中央線乗ってると思ってんだ? 14年だぞ、14年。赤ん坊が立派にたわけた口きくガキになる年数だよ。それを毎日2回、1年に264日で1037回だぞ…

【短編小説】馬喰横山さんの思い出

小学生のとき、同じクラスに馬喰横山さんという女の子がいた。「バクロヨコヤマ」と読む。馬喰横山さんは背が高くて、ピアノを習っていて、少し栗色がかった髪の毛をいつもおさげにしていた。 3年生のとき、僕と馬喰横山さんは隣の席になった。 僕は身の回り…