【読書記録】平野啓一郎「マチネの終わりに」

・2週間ほど前から平野啓一郎の「マチネの終わりに」(文春文庫)をぱらりぱらりと読んでいる。単行本が出たのは2016年、つまり6年前のことで、僕の頭の中の「近いうちに読む」リストには少なくとも4、5年は入ったままだったのだがようやく読み始めた(僕の場合特に珍しいことではないのだけど)。

・作者が現在日本の中堅(注:年齢的な意味で)作家として公に高く評価されている(注:たぶん)……という予備知識の影響は否めないとしても、冒頭3ページに記された「序」の文章にはいきなりちょっと唸ってしまった。こういう簡潔にして出来事の全体を一度に示唆するような文章は誰にでも書けるものではないだろう。もっともこういう趣の「序文」の、その趣自体は一種の様式のようなものではあって、それを最初に発明したのはドストエフスキーなのか、トーマス・マンなのか、それとももっと以前の誰かなのか僕にはちょっとそのへんは教養がないのだけど。

・しかし、その後本編を読み進めるにつれ、あれ……これはもしかして割とフツーに娯楽的な(かつ舞台設定が随分大仰な)中年不倫恋愛小説なのでは?と思い始めた。「あれ……」というのは、僕は序文や「予備知識」から本書をそれこそ「魔の山」のような小説なのであろうと思い込んでいたのだ。だけどカバーの折り返しを見たら「本作は第2回渡辺淳一文学賞を受賞」と書いてあったので、やっぱり普通に中年不倫恋愛小説なのかもしれない。ともあれ、もうちょっと読んでみないとわからないでしょう。